ゲームマーケット2018秋では「マメィ」を新作として販売しました。
「マメィ」を作るにあたっていろいろと書いておきたいことがあったので
「老師敬服」のデザイナーズノートは前半しか書いてないのにも関わらず、
「マメィ」のデザイナーズノートを書き始めています。
作り始めたきっかけや、当時どんなことを考えていたか、
を振り返ったという感じの内容です。
とても長くなってしまいました…。
ちなみにこの記事は
I was game のカレーさんが行なっている
『ボードゲームデザインアドベントカレンダー』の12月5日の記事となります。
Board Game Design Advent Calendar 2018
1、発端
数年前、ボードゲーム「雲海」をよく遊ぶ友人に遊ばせてもらいました。
(説明書の制作協力に名前の書かれている、ちとさんです。)
その時持ってきた、ちとさんが言っていたことを
自分が覚えている範囲でまとめると以下の4点です。
・ウィンストンドラフトという仕組みを使っている。
・以前からウィンストンドラフトが面白いと思っていた。
・なにかウィンストンドラフトでゲームが作れないかと考えていた。
・先に出されてしまった、悔しい。
自分が感じた印象は以下の4点でした。
・カードの特殊効果が多くて面倒。
・細かいルールが多くて面倒。
・ちとさんのゲームの説明が大変そうだった。
・ウィンストンドラフトの部分は面白い。
その時はウィンストンドラフトというシステムを知り、
特にアイディアも浮かばず、
面倒な部分がもったいないなと思っただけで会は終了しました。
「ウィンストンドラフト」はマジック・ザ・ギャザリングの生みの親である、
リチャード・ガーフィールド氏が考案したシステムです。
後に登場するスパイネットの作者でもあります。
ここでは何も説明しないので、調べてみてください。
2、宇宙
おそらく1年くらいの間隔があき、
PlanEの山内さんが「こんなゲーム作りたい」というアイディアから
自分もこうしたらいいんじゃないかといろいろアイディアが浮かび、
「コードネーム:宇宙」というゲームを作っていました。
この件は「マメィ」に関係あるのか?と思われるかもしれませんが、
制作の考え方について大きく影響を与えました。
「コードネーム:宇宙」は
2018年の11月の段階では2時間級の長時間ゲームで、
デッキ構築要素のあるリソースマネージメントゲームです。
プレイヤーはどういう気持ちでプレイするのかを考えて
テストプレイと修正を繰り返します。
先手後手で初期素材に差をつけようとか、
いろいろなルートを選べるようにしようとか、
この部分では後手のほうが有利だけど、
先手は低コストで入れるようにしようとか…
プレイしやすいように個人ボードの配置や大きさを考え、
どのようなコンポーネントが必要か…等々。
「とにかくしっかり作ろう」
それが当たり前だと考えている部分がありました。
大型のゲームで、
テストしてその後バージョンアップするのも大変です。
それらの作業に少し疲れていたのかもしれません。
簡単な小箱のゲームが作りたい欲求が高まっていました。
しかし、いいアイディアもなく、
頭の中は宇宙のことをいつも考えていました。
3、再燃
宇宙を作り始めて間もなく、雲海をプレイしてから1年ぐらいたったある日、
またよく遊ぶ友人にボードゲーム「スパイネット」で遊ばせてもらいました。
(マニュアル校正に名前の書かれている、HAL99さんです。)
このゲームもなんとウィンストンドラフトだったのです。
「スパイネット」に関して自分が感じた印象は以下の5点でした。
・ウィンストンドラフトの処理が雲海に比べて整理されている。
・得点をとる方法分かりやすい。
・カードの強弱がわかりやすく、はっきりしていて悩ましい。
・カードの特殊効果はあり、面倒。
・他人を直接攻撃する要素があって嫌だ。
「スパイネット」にはとても関心し、ゲームも楽しみました。
その中でいろいろと自分の中でそれぞれの仕組みが、
どうしてそうなっているのか自分なりに考えられるようになっていました。
「スパイネット」では場に色のついたカードを出し、色ごとに誰が多いかを競います。
例えば、自分が他人の誰よりも多く赤色のカードを出しているのであれば、
手札にある赤色の得点カードを出して得点化することができます。
こうやって得点を得ていくわけですが、
場に出しているカードが増え続けると、少ないプレイヤーはそれに追いつくことができません。
そのため、多いプレイヤーを攻撃し、カードの枚数/影響力を減らし、
自分が得点できるようにする必要があります。
そのため直接攻撃の要素はこのゲームでは必要なものだと思いました。
しかし、他人に攻撃されたり、攻撃するのは好みではありませんでした。
攻撃要素を含めると、特に意味もなく他人を攻撃できますし、
そういったことができないよう、ルール側で何とかできないか考え始めました。
次に多くのテキストが書かれた特殊カードたちが気になりました。
いちいち効果を読み、効果を理解し、分からなかったらその都度聞くことになります。
手札は非公開なので、ドラフトしながら説明書を借り、こそこそ見るのも、
テンポが悪いと感じ、自分の好みではないと思いました。
特殊カードに関してはまた別の機会に考えてることをまとめたいです。
とにかく、特殊カードは無しにしたい!
ということで、
ウィンストンドラフトのゲームを考え始めたわけです。
4、百十壱
「マイラミー111」というゲームをご存知でしょうか?
「マイラミ―111」はカードを交換したりして
左から右に昇順か降順にするのを目指すゲームです。
その語感から「マメラミー」というゲームを考えようとしていました。
カードごとに色があり一定の色の豆が連続で並んだら、収穫し、
得点化するというイメージです。
どの数字にどの豆を置くか、考えたりしていくうちに
他にも「ラミー17」など
ラミー系のゲームではどんな形で得点できるか調べていました。
ラミー系のカードを出す感じは気持ちよくて、
何らかのセットが揃ったら出す、というのはわかりやすいなと思っていました。
1〜111のうち、下一桁が1と5が緑色の豆にして、
うまいこと抜いて同じ色を連結させよう!
みたいなことをしようとしていたのですが、
そこから簡略化し、今の1〜5の色4種にしました。
手札の順番固定はあまり意味がないと思ったのでそこも自由にしました。
(ボーナンザが大好きなのでチャレンジはしてみました。)
そしてある程度のセットを作ったら、カードを並べ、
カードの上下左右に書かれた半分のコインアイコンをつないで得点を得る。
そんな風にしていました。
同色連番はカードを横につなぐとコインアイコンが完成、
異色の同数は縦にカードをつなぐとコインアイコンが完成、みたいな感じです。
現在のお店ボードのようなものはありませんでした。
そして、カードをどうとるのか、
とりあえずウィンストンドラフトにしてみるか…、と試してみたらいい感じじゃないか…!
というのが「マメィ」の原型です。
これはスパイネットを遊んでから1週間くらいの時に考えていたことです。
5、転機
ゲームの詳細が詰めていった時の話です。
当初、マメィの原型では初期手札がなく、
なかなかカードが出されないため、ゲームがなかなか始まらない感じがありました。
そこで揃えるカードの最低限の指針と、ゲームの加速のために初期手札を設定しました。
しかし、
先手後手で不利があるんじゃないか、
じゃあ初期手札を後手の人から取っていく
ドラフトみたいなことをしようか、
それとも初期枚数か勝利点で差をつけるか、いろいろ考えました。
このゲームではひたすらドラフトをやりますし、
初期手札をドラフトするとか…どうなんでしょうか?
初期手札のために準備の時間をかけるのは良くないと思いました。
宇宙の反動でしょうか?
とにかくゲームを手軽に始められるようにしようと思いました。
そして、こう考えました。
「先手後手の不利など細かいことを考えるのは
もしかしたら自分がゲームでよく遊びすぎていて、気にしすぎているからじゃないか?
このゲームはそういうゲームではないじゃないか。」
と。
そこから割り切り、いろいろと考えるのをやめたり、
不必要なルールの追加はしないようになりました。
このゲームはカードの引き運が大きな勝利の要因になると考えていますし、
引きに対する一喜一憂や、本当に欲しいものを引いた時の快感、
それこそがこのゲームの面白いところだと思ったのです。
欲しいカードがうまいこと引けて、高得点のセットが出せたら気持ちいい!
それがこのゲームを自分が出したい理由みたいなもので、
ゲームをプレイして、どのプレイヤーが勝つのか負けるのか、
作った自分にとってそれはどうでもいいことでした。
初期手札は2枚をランダムにしました。
Xを2枚引いたとしてもそれは引きが良かったね、としました。
先手後手のどっちが有利かは正直なところよくわかりません。
それは先手がどれだけ公開したかによって後手が有利かもしれませんし、
まだお店ボードが空いているという面では先手が有利かもしれません。
気になるならスタートプレイヤーを入れ替えて、
人数分プレイでもすればよいでしょう。
しかし、説明書に記載しなかったのです。
「このゲームはそういうゲームじゃない。」
と思ったからです。
こんな風に考えたのは今まで作ったゲームの中でこれが初めてです。
いつもは自分の好きなゲームを作ろうと、そう思っていました。
それは今も、このゲームも変わらないのですが、
「このゲームはそういうゲームじゃない。」というのは
このゲームを遊ぶ人はそういうことを求めていないだろう、
と考えているのだと気づきました。
このゲームを遊ぶ人がどんな人かは想像もできませんが、
遊ぶ人をなんとなく意識したゲーム作りをしたのは今回が初めてだなと、そう思ったのです。
6、調整
ここから調整の話です。
〇お店ボード
お店ボードが誕生したのは、
カードを並べて得点を示すという方法が見づらかったからと、
セットの枚数に応じて追加点を与えるために必要だと感じたからです。
たくさんの枚数でセットが出来たら、それ相応の得点が欲しいと思うでしょう。
そのセットが出来たら目印としてコマを置いておくことにしました。
お店ボードは、早取りの仕組みを考えたから導入したものではなかったのです。
〇手札の制限
このゲームではカードを貯めこむことで良いセットを作れることができるので、
カードを溜めがちです。
手札制限をつけることでなかなかカードを出さない膠着状態を解消しようと考えました。
しかし、ウィンストンドラフトのカード回収と相性が悪く、
公開されてるカードは丸ごと手札に入れたい、その方が気持ちいいと思いました。
そのため、引く前に枚数チェックがあり、
規定枚数に引っかかってたらそもそも引けないという方式を採用しました。
〇お店ボードその2
手札制限でも触れましたが、プレイヤーはカードを溜めがちです。
そこで早くセットを出せた人に追加点を与え、そのうち出せなくなるように制限し、
プレイヤーを焦らせるようにしようと思いました。
早取りにしようと設定した瞬間です。
誰かがカードを出し始めると焦り、展開が動く。
そしてまたしばらくカードを溜めるターンとなり、
誰かがカードを出し、焦る。
これにカードの枚数制限の仕組みが絡み、
いずれ出さなければならなくなるタイミングがくる。
サイクルが自分の中でちょうどよいと思える感じになって良かったなと思いました。
ゲームの序盤では自由度のあるカードの出し方ができますが、
終盤になるにつれて出せる条件が絞られ、
枚数よりもカードの内容が重要になってくるのも変化があってよいなと思いました。
〇ウィンストンドラフトの変更点
これは最後のほうで決めたことなのですが、
誰かが見たカードを表向きにして戻すようにしました。
本来のウィンストンドラフトは戻すカードも裏向きで、
手番が来るまでただ待つだけとなっていました。
表向きにすることであのカード取られないでほしいと考えたり、
あそこまでカードを見ようという指針になったりして、
良い方向に機能しているんじゃないかと思います。
そして、カードを補充する際にどこまで補充したか、
畑を見ればわかるため、補充のし忘れを防止できるのも
細かいですが良いところだなと思ってます。
〇得点効率
まず、商人コマ1個が1点というのを基準にし、
どのようなカード構成でも得点化しても、
必ず1点以上は獲得できるようになっています。
(必ず1点以上得点を得る…これは当たり前のことを言っているかもしれませんが、
実は得点する際に商人コマを1個消費しているため、1点を消費しています。
そのためお店ボードの最低得点が2点になっています。)
そして、各種得点は同色連番でとれる得点を基準にして設定しています。
同色連番の得点は一見すると小さいように見えますが、
必ず一定の豆ボーナスアイコンがつくため、素点が小さくなっています。
最も得点が小さいのが異色同数です。
異色同数で最大の効率を出せるカードで出すことができれば、
異色同数で出したカードの枚数+1枚の同色連番くらいの得点が取れるようになっています。
同色同数は集めるのが難しく、
手持ちの連番を崩すリスクもあるため、最も高得点に設定されています。
18点はこのゲームでとれる最大の得点で、
これは豆ボーナスアイコンのない3を最大限に生かせる箇所となります。
同色連番と同色同数(枚数多いところ限定ですが)は豆ボーナスアイコンを考慮した得点設定になっています。
一方で異色同数はカードの質で得点が大きく上下します。
7、アート
「マメィ」は豆をテーマにしているものの、
今までに作ってきたゲームの中で、最もボーナンザから離れたゲームです。
自分自身では、
「老師敬服」も「ドラゴン」もボーナンザの(精神的な)派生だと考えているのですが、
「マメィ」では他人からありがとうと言われるようなゲームではありません。
前の手番の人に、ありがとうという場面があるかもしれませんが。
最近は脇役になっていた豆でしたが、
今回は簡単なゲームでしたので、これは絶対に豆を主役に出そうと思い、
長谷川登鯉さんか井上磨さんのどちらかにお願いしようと思っていました。
そしてお二人が譲り合い、結果、井上磨さんがアートを担当してくれることになりました。
簡単なゲームなので、とにかく可愛く、というざっくりとした感じでお願いしました。
アートに関しては特に何の問題もなく、
「可愛いですね。」を連発するマシーンになっていました。
プレイアビリティに関しては何かあった時には
「遊んでみてここがちょっと見づらいです。」とかこちらから相談したり、
逆に磨さんの方から「ここが見づらいかもしれないので、大きくします。」とか
提案をもらったりしました。
ギリギリになって、結構大掛かりな色の変更を行ったり、
説明書の修正が頻繁に行われ、ご迷惑をおかけしてしまいました。
印刷を担当してくれたタチキタさんも色々と対応していただき、とても感謝しています。
今後、色々な方に豆を書いてもらいたいと思っているので、
ファンタジーやハードボイルドな豆の時は長谷川登鯉さん、
おしゃれな豆のときはツクダヒナミさんなど、
ゲームの雰囲気にあった豆を書いてもらいたいなぁ…なんてことを思っています。
8、最後
実はあまりマメィは自信がありませんでした。
しっかり作ろうという思考から離れて、
肩の力を抜き、気軽な気持ちで作ったゲームだからです。
本当に大丈夫か、すごく不安でした。
でも、実物が届いたとき、不安は吹き飛びました。
完成品がとても良かったのです。
持っておきたいゲームだ、そう思いました。
ゲームマーケットでは好評で、今までにない勢いで売れていきました。
試遊してくれた人も、可愛い見た目から遊んでみたい!と入ったものの、
ちょっと考えるルールとのギャップで顔を曇らせる方もいましたが、
楽しんでくれたようです。とにかく、嬉しいです。
(今までの気持ちと違った作り方で大好評!ということで
正直なところ若干複雑な気持ちもあります。)
次は今まで通り、自分の好きなゲームである宇宙を完成させて、
販売できたらいいなーと思います。